リアル「マザー」
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【第百七十四話】
前回までの恋の鉄人285は。。。） 『ライブチャット』で出会ったＭ奈さんと半同棲生活が始まりました。次の週末に彼女の家に行ってみますが、相変わらず部屋にゴミを散らかした状態に私が叱ります。まぁでも、急に状況を変えろというのも酷な話かも知れないと思い直しますが・・・。
Ｍ奈さんとお付き合いを始めて、彼女の部屋に来るのは２度目です。前回手がつけられなかったクローゼットの整理は彼女自身が頑張って整理したようですが、大量のゴミ廃棄となるため大家さんに知らせて、問題なく処分してくれるという話を聞けたので安心して買い物に出かけます。
近くのスーパーに２人で出かけ、まだ肌寒いので今日はキムチ鍋をすることにしました。普段、コンビニ飯が多そうな彼女のために、できるだけ栄養がとれるように、いろんな海鮮、野菜も多種揃えました。もちろんマロニーも入れます。帰ってまず、ご飯を研いで、ジャーのスイッチをオン。
先週、手に入れたテーブルも重宝しているようで、今日も、２人掛けソファの前にそのテーブルをセット。２人の茶碗やお箸を揃えて、真新しいカセットコンロにボンベを差し込んで点火。鍋にキムチの素を流し込み、とりあえず鶏肉を煮込みます。まぁ正直、鍋は料理とは言えないレベルで具材を放り込むだけなので、煮立つのを待っていればいいだけなんですが。
その間に彼女のプライベートに少し切り込みました。「家族とこうやってご飯食べたりするのは久しぶり？」「うん」「家族関係ってどうなってるんよ？」「母親とは定期的に会う。父親とは長いこと会っていないな」「もしかしてやけど、片付けられないのはお母さんの影響？」「うん。うち、育児放棄されてたから」。聞けば、昔、松雪泰子と幼い頃にデビューした芦田愛菜が主演の『Mother』というドラマがありますが、まさにあれに近い状況で育ったと言います。つまりは母親がネグレクトの状況だったようです。彼女には少し上のお姉さんがいて、２人とも幼児期から育児放棄された状態で育ったようです。両親は早くに離婚していて、父親がサラ金から多額の借金を背負っていて、毎日のように怖いおじさんが家に取り立てにやってきていたと。取り立ての影響を受けないように離婚していたのかも知れませんが、子どもにとっては大迷惑な話です。
母親も水商売などで稼いでくれていたようなのですが、ドラマと同じように、硬貨だけ置いては２人を数日間放置して出て行くことも度々だったらしいです。その度に姉妹で買い物に出て好きなものを買っていたとは言いますが、もちろん栄養のあるものなど口にしてはいなかったでしょう。それだけ聞くだけでも、あまりにも悲惨な状況なので、それ以上のことを聞くことは敢えてしませんでした。
自傷癖があったり、タトゥーを入れたりするのも、そこに関わってくるのだろうというのは想像に難くない話です。また収入としては、『ライブチャット』のほかに、精神障害を持つ人間が受けられる公的年金を得ているようです。公的機関も、彼女の生活状況を早いうちからある程度把握していたのかも知れません。それだけ重度な精神障害を抱えているということですが、その壮絶な過去を聞けば納得です。まぁとりあえず、今やそんな話も笑いながら語れる彼女。それを聞いた私は、彼女にはなんとか平凡で幸せな生活を送れるようにしてあげたい、そんな気持ちに駆られるのでした。
さぁ、ご飯も炊けて、そろそろキムチ鍋もいい感じになってきました。２人で鍋を囲み「まぁ、放り込んだだけやけど、２人で食うとうまいもんやなぁ」と言うと、幸せそうな笑みを浮かべて「うん」と返す彼女でした。２人とは言え、ひと通りの野菜や肉を入れて食べるとお腹はパンパンです。
腹ごなしに私はお風呂を軽く洗い流し、お湯を溜めている間に、食事の後片付けにかかります。私にできることは私がやればいい、と思っていましたし、食器や調味料の置き場所を決めたのも私なので、私がやっておくのが効率的です。お風呂のお湯が溜まる頃に彼女に「先に入って香りの玉、入れておいて〜」と頼みます。まだお腹もこなれていないうちにお風呂というのも体に良くないかもしれませんが、休憩してしまったらもう何もしたくなくなりそうなので、いっぺんに物事を済ませたいのです。まぁ普段はどんな生活を送っているのかはわかりませんが、私といる時間は、ルーティンを決めて生活してもらうように努めます。
お風呂に浸かる彼女を横目に、私が洗い場で先に体を洗います。最初に来た時は、シャンプー・リンスも詰め替え用の袋がぞんざいに置いてあり、適当に絞り出して使っていたようですが、もちろん私がボトルに差し替えています。私の髪は短いので、リンスはほぼ数秒なじませるだけで流すのを彼女が見て「え〜、早すぎひん？」と笑います。洗い終えた私と交代で彼女が体を洗いに湯船を出ます。体が温まったところで私が先に脱衣所に出て、洗濯機を廻します。こうして２人でいる時の生活の流れを作っていきます。もちろん、きちんと生活の流れを作れている人の住処でこんなマイペースなことはしませんが、彼女がそういう流れを作るのが苦手な人なのでできること。まぁ正直、少しそんな生活を楽しんでいる自分がいました。
【第百七十四話】に続きます・・・。
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